全国大学附属農場協議会

会長からのメッセージ


新型コロナ禍における大学農場

全国大学附属農場協議会
会長 長尾 慶和
(2021年4月1日)


 令和2年度は、新型コロナウイルス感染症により、世界中に大きな禍がもたらされ、多くの方が亡くなりました。現在でも感染者は増え続けており、後遺症に苦しんでいる方も多くいらっしゃいます。心よりご冥福をお祈りすると同時にお見舞いを申し上げます。また、逼迫した医療を支える関係者の皆様のご尽力に謝意を表したいと思います。

 このような社会情勢の中、大学のあり方も大きく変わりました。多くの講義が「対面」ではなく「オンライン/オンデマンド講義」の形態で実施されました。農場における実習についても例外ではなく、フィールドで行う実習そのものよりも、農場までの移動するバス等の交通手段や更衣室などにおけるソーシャルディスタンスの確保、あるいは実習で使用する器材の消毒対策などがネックとなりました。その結果、令和2年度には、約50%の全国の大学農場・センター(以下「大学農場」)が対面で行う実習の一部あるいは全面的な中止を余儀なくされました。加えて、体験教室や公開事業など、対外的な行事の多くは中止となりました。フィールドにおける実習は、農業や自然・生命について、五感を最大限に活性化しながら学ぶことを基盤としています。学生とのリアルなやり取りは講義室で行う授業以上に重要で、オンライン化は実習における学びの本質を失うこととなります。ただでさえスマホに依存しがちな学生達にとって、講義や実習のオンライン化による直接的かつ長期的な弊害が、「Z世代のスマホ脳」といった言葉で表現されています。生活の多くをスマホやパソコンから得られる情報に依存することで、大脳の前頭前野の発達が阻害され、これによって感情の制御力や想像力・集中力・コミュニケーション力などが低下することが指摘されています。おそらく学生達自身も本能的にそのことに気がついていて、宇都宮大学の1〜2年生約150名に対するアンケートでは、実習に先立つ事前説明の対面実施を強く希望する学生が19%(「オンラインでも良い」は81%)だったのに対し、実習自体の対面実施を強く希望する学生は94%にも昇りました(「オンラインでも良い」は6%)。オンライン授業は、情報をやり取りするツールとしては優れていても、学生達を実験や実習を含めてオンライン漬けにすることは、学生達の心や知能の健全な発達を阻害している可能性が高いのです。オンライン教材を有効活用しつつ、前頭前野を刺激する未知の体験に満ちあふれた農場実習を積極的に実施し、学生達が自ら考え、想像し、行動する力を育むことが、今こそ求められています。

 全国大学附属農場協議会は、個々の大学農場にとって画期的な(あるいは有益な、嬉しい)情報があれば皆で共有し、大学の状況に応じてモデルとする。留意すべき(あるいは残念な、危険な)情報についても相互に共有し、必要に応じてサポートする。そのような情報交換・協力体制の構築を主旨として組織されている全国の大学農場のネットワークです。執行部では、コロナ禍における実習時の感染症対策や有効な実習方法等、各大学農場の取組の共有を進めて行きたいと考えています。全国各地の大学農場におかれましては、吹き荒れる新型コロナ感染症の逆風に負けず、オンラインと対面を組み合わせた新しい実習を実践し、フィールド研究や人材育成、地域との連携活動を引き続き推進していただきますよう、どうぞよろしくお願いします。




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