会長からのメッセージ(過去)



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ご 挨 拶

全国大学附属農場協議会
会長 齊藤 邦行
(2017年3月22日)


 2016年は東日本大震災から5年が経過し、やっと復興に向けて歩み出したかと思ったところで、4月には熊本地震が発生し東海大学農学部阿蘇キャンパスも被災されました。 前途ある複数の学生が亡くなられたことは痛恨の極みであり、ご冥福を心よりお祈りするとともに、被災された関連各位の皆さまにお見舞いを申し上げます。 東海大学農学部農学教育実習センターも被災し、春の協議会で阿部センター長から被害の実情が報告されました。その後授業が7月1日から熊本キャンパスで再開となり、 熊本キャンパスだけでは実施が難しい農場実習ついては、熊本県の農業研究センターや農業大学校、あるいは農研機構九州沖縄農研センター等の施設・ 圃場などを利用しているそうです。阿蘇キャンパスにある実習センターを利用再開できるかは、現在、調査検討中とのことです。一日も早い復旧をお祈りしております。 2016年夏は猛暑との予測がでていましたが、やや猛暑日は多かったものの、8月下旬以降は台風が多く発生し、北海道に3つの台風が、東北に初めて台風が上陸し、 暴風雨により河川の決壊、浸水被害が出ました。農地も浸水被害を受け、輸送交通網の遮断により、タマネギ等が高騰しました。9月の台風上陸、長雨、日照不足により、 植付け・播種ができず、生育不良により野菜類の高騰を招きました。それぞれの農場・センターでも野菜類の植付けができなかったり、 逆に高値で販売できた所もあったかも知れません。自然の脅威を思い知らされた1年でした。

 農業分野では、農業人口が200万人を下回り、2050年には100万人程度となり、そのうち3割は85歳以上との試算が自民党により報告されました。TPPとも関連して、 これでは現在の農業生産は維持することは不可能です。人材育成や労働力確保対策が急務です。これらとは裏腹に、受験産業大手の情報によると、 農学系の志願者が毎年増加しているそうです。すなわち、農学部が人気なのです。吉備国際大学地域創生農学部が2013年に、龍谷大学農学部が2015年に、 徳島大学生物資源産業学部が2016年に開設しました。福島大学農学部が2019年開設予定とのことです。食の安全安心への関心の高まり、食料自給率、TPP問題、 気象変動と食料危機等に加えて、理系女子の増加が背景にあり、特に農学系を志望する女子をノケジョと称する造語も生まれています。農学系ではないにしても地方(地域) 創成に関連する学部・学科も開設が相次いでいます。地域を創成し地域産業を振興する人材育成には農学、環境学そして特にフィールド教育が不可欠です。 農学部長会議におきまして、全国大学附属農場協議会に加入いただくよう、勧誘を行ったところです。

 本年3月に文部科学省から「農学系学部における教育研究及び大学附属農場等における地域連携に関する調査結果」が公表され、各大学長宛送付されました。 この調査は昨年、当時のあべ俊子農林水産副大臣が文科省の担当者を呼んで農学教育に関する情報収集を依頼して実施されたもので、 大学附属農場等が地方自治体や農業高校等と連携し、教育や普及活動を行っている事例や、今後の連携の可能性、 農学系学部における六次産業化や研究成果を活用した地域貢献等について、調査したものです。地域連携に果たす農学部、附属農場・ センターの役割を再認識していただくとともに、さらなる連携の強化、COC事業の推進等に利用していただければ有り難いです。

 文部科学省は平成25年に「国立大学改革プラン」を発表し、ミッションの再定義に基づき、第3期中期目標期間(2016年度〜)には、 各大学の強み・特色を最大限に生かし、自ら改善・発展する仕組みを構築することにより、持続的な「競争力」を持ち、 高い付加価値を生み出す国立大学の機能強化を求めています。ミッションの再定義に関する文書の最終案が文科省・各大学から公表されていますので、今一度ご確認ください。 フィールド実習を通じた実践的な教育の重要性や地域産業への貢献、社会人教育等が記載されていると思われます。 また、第3期中期目標・中期計画も公表されているので、一読をお勧めします。当たり前ですが、国立大学はこれに基づいて運営されています。 共同利用拠点、農場移転や土地売却等も必ず記載されています。

 学術会議では2015年10月に大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 農学分野を発表しました。生産農学の特徴の中に「農場での栽培の実践」、 応用科学的手法の修得における農場等での「実習の有効性」、生産農学における学修方法として、農場等を利用したフィールド実験等の「体験学修」 が記載されている点においては高く評価しています。この参照基準に基づいて、今後学部教育のあり方が問われて行くことになります。 農場協議会でも当初実習教育の質保証を図るため「実習教育の基準(ガイドライン)」の作成に取りかかってきましたが、最終的に「大学における実習指導の手引き」 を作成して、全国農場協議会HPで公開されています。この時の議論でもそうでしたが、基準が各大学の教育課程の自主性、多様性に配慮したものでなければなりませんし、 文科省による教育課程の点検項目にならないことを強く望みます。

 2016年度は教育関係共同利用拠点として、静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センターが再認定、 京都大学大学院農学研究科附属農場が移転してすぐに新規認定されました。京大農場は次世代型農業技術の開発と実証拠点を目指して移転を行い、 この教育研究に共同利用を目的として先端的施設と宿泊施設を整備しました。法人化後の農場移転としては、ロールモデルとなるかも知れません。 文科省では、各大学の有する人的・物的資源の共同利用等を推進することで、大学教育全体として多様かつ高度な教育を展開していくことが重要としていますが、 食品・栄養系の大学に実習プログラムを提供するよりも、農学系学部長会議を構成する農学系学生に、多様な風土、歴史、 文化を持つ実習プログラムを提供する方が望ましいと思っています。

 本年度秋季協議会に於いて、承合事項1に「農場の運営予算等について」が取り纏められています。 国立大学法人附属農場では法人化後の運営費交付金の削減(12%以上)が教育研究施設としての農場の運営を圧迫してきています。 収入見合いによる運営費の増加には限界があります。今後、規模の縮小や予算配分方式を変更する必要があるかも知れません。また、 承合事項2に「農作物等被害調査」が纏められています。今後、気象災害のリスクと隣り合わせて農場運営を行っていく上で、大変参考になります。 一農場一アピールもブランド商品開発、6次産業化等による地域貢献、地域創生のツールとしてもご活用下さい。これまで、私自身あまり利用することがなかった年報ですが、 大学改革の中で教育研究施設として機能強化を図って行くことが求められる昨今です。予算要求やCOC事業、地域連携活動の参考にご利用下さい。

 この度、平成28年度の全国大学附属農場協議会事業報告と春季・秋季協議会記事を、大学農場年報第49号として取り纏めました。編集幹事をはじめ、 役員の皆さんには厚く御礼申し上げます。関係各位には、ご高覧いただけると幸いです。