会長からのメッセージ(過去)



ご 挨 拶

全国大学附属農場協議会
会長 田島 淳史
(2014年8月24日)


はじめに
 全国大学附属農場協議会は第二次世界大戦が終わった4年後の昭和24年(1949年)に設立され、現在52大学の53農場・センターが加盟している全国組織です。大学附属農場・センターの役割は多岐にわたり、農業生産に関する技術を開発・改良し、学生実習や研究のために利用するのに留まらず、農業生産技術の背後にある地域の文化や伝統、それらと密接に結びついた農村問題や、食料・飼料の供給体制をめぐる基礎から応用までに亘る多様で幅広い視点に対する基盤を提示することが含まれています。本場協議会は、この様に多岐に亘り重要な役割を持つ全国の大学附属農場・センターが共通して抱える問題点について協議して解決策を探るとともに、文部省(当時)と交渉する際の窓口として機能してきました。

歴史的背景
 本協議会が設立された昭和24年という年は、現在にも繋がる新制大学が発足した年でもあることは注目に値します。新制大学とは、終戦の翌年に日本を訪れた 米国教育使節団 が連合軍総司令部(GHQ)に提出した報告書の中に「日本には教育改革が必要である」と記述されたことに基づき昭和22年(1947年)に制定された学校教育法に拠り再編または新設された大学を指します。その後、昭和31年(1956年)に制定された 大学設置基準 の第39条に農学に関する学部には農場、獣医に関する学部・学科には家畜病院、畜産に関する学部・学科には飼育場または牧場を設置するということが記載されたことにより新制大学の農学部に附属農場が設置される根拠が明確になりました。

 本協議会が設立された当時は、戦後の食料不足を背景に食料供給体制の整備が最優先課題であったため、農学教育は農業基盤造成と農業生産増加という明確な課題を解決することが目標でした。ところが、その後人口が急激に増加したこと、並びに高度経済成長を背景に農産物の輸入量が次第に増加した結果、GDPに占める農業生産の割合が徐々に低下したことから農学教育の目標もまた次第に変化し多様化してきました。

農学教育の変化
 日本の大学教育全体に眼を向けると、戦後半世紀近くに亘り新制大学のシステムで運営されてきましたが、政治・経済状況の変化を反映して平成3年(1991年)に 大学設置基準が大綱化 されたのに伴い教育組織の大幅な再編が行われました。これに引き続き、平成16年(2004年)には国立大学が独立行政法人化され、日本の大学教育に大きな影響を与え現在に至っています。

 特に農学教育に関しては同年に大学基準協会から 農学教育に関する基準 が提示されました。これらの一連の大学制度改革の結果を農学教育の立場から判断すると、教養教育の比重が低下し、より低学年から専門教育を行う様になってきたこと、農学教育が専門分野ごとに細分化し、より分析的になってきていることが挙げられるように思います。言い換えると、1990年代からの一連の教育改革は第二次世界大戦後に構築された新制大学の教育システムの見直しであったという位置付けになる様に思います。

農学教育の課題
 これらの教育改革が日本の社会システム全体に与えた影響を評価するのにはもう少し時間がかかると思いますが、現在の世界と日本をめぐる社会情勢の元で農学教育が取り組まなくてはならない課題には、互いに関連している以下の二つの側面があることを理解する必要があります。
 まず世界的な視点からみると、特に発展途上国における急速な人口増加と経済成長に伴う食料需給の逼迫に対して日本がどの様に対応するのかという問題があります。その一方で日本国内に眼を向けると全く様相が異なり、少子高齢化と人口減少に伴う農業生産者と食料需要の減少に対し、日本国内の農業生産体制をどの様に整備し発展させていくのかという問題があります。

附属農場・センターの役割
 これらの幅広い課題に取り組むためには、個別の専門知識を深めるだけでは不十分であり、食料の安全性や日本を巡る地政学的リスク、さらには気象変動等の様々な要素までをも含めて全体の状況を俯瞰した上で総合的に判断する姿勢を涵養する必要があります。この幅広い問題に取り組み、総合的に判断できる様になるための基礎を養うことこそ、日々現実と向き合っている附属農場・センターが大学教育の中で果たすべき役割だと思います。

全国大学附属農場協議会の役割
 日本の農業は「特産品」という言葉で表現される通り、国内の地域特性が極めて大きいことが最大の特徴です。本協議会の加盟校は、地域特性を最大限に生かした多種多様な取り組みを行っていますが、本協議会は加盟校が共通して抱える教育・研究上の課題について情報交換し改善策を探るとともに、今後より良い附属農場・センターになるための方向性を検討する場として機能してく所存です。

本協議会と加盟校に対し、皆様からのご支援と積極的な提言を賜りたくお願い申し上げます。